『第158話』 世界一強力な毒、食中毒の原因に
職業柄、世界で一番強力な毒物は何か、という質問を受ける。神経ガスなどよりもはるかに強力な毒物が身近にある。それは細菌が作り出す毒素だ。
食中毒の原因菌のひとつ、ボツリヌス菌が作り出すボツリヌストキシンの毒の強さは、神経ガス「サリン」の200倍以上だ。それに次いで毒が強いのは同じ種類の破傷風菌が作るテタヌストキシン。ともに神経毒で、神経末端から神経伝達物質・アセチルコリンが放出するのを止めてしまう。つまり神経がまひしてしまうわけだ。しかし、ボツリヌストキシンは脳に入らない。それを利用し、ジストニアという筋異常緊張症を治療する試みもなされている。
ボツリヌストキシンは比較的熱に弱く、80度の状態では30分で無毒になる、しかし、黄色ブドウ球菌が作り出すエンテロトキシンは熱に強く、加熱しても無毒化しない。
黄色ブドウ球菌による食中毒は次のように起こると考えられている。調理する人にできた傷に黄色ブドウ球菌が感染して増殖し、膿(うみ)ができる。膿とともに黄色ブドウ球菌が食品中に混入して食品を汚染する。汚染された食品中で増殖を続け、やがてエンテロトキシンを作り始める。これを食べると食中毒になる。予防するには傷をつくらないことと手の洗浄、消毒をしっかりすることが大切だ。
このように細菌が存在しなくても、細菌が作り出した毒素が引き起こす食中毒を毒素型という。
一方、主に多量の細菌を摂取することによって起こる食中毒を感染型という。
感染型の腸炎ビブリオは海水中で増殖する菌で、これが付着した魚介類を食べて食中毒を起こすことが多い。予防するには水道水でよく洗うことだ。また、生の食肉、牛乳、水は…カンピロバクターによって汚染されていることがある。いずれも加過熱処理で予防できる。
暑い日が続き、各地で発生した食中毒が報道されている。ひとごとではなく、食中毒が自分自身にも起こる可能性があることを忘れてはいけない