『第162話』 ニコチンガムが禁煙の有力手段

たばこはアメリカ・インディアンが霊薬として用いていたものをコロンブスがアメリカ大陸を発見したときにスペイン、ポルトガルに伝えた。1561年、フランスの駐ポルトガル大使ジャン・ニコはリスボンで入手したたばこをフランス王室に献上し、女王カトリーヌ・ド・メディチが片頭痛の薬として使ったのが評判となり、たばこの学名ニコチアナと主成分ニコチンにその名を残すことになった。その後、約100年の間各国が禁止したり厳罰を科したりしたが、喫煙は世界中に広まっていった。

たばこは百害あって一利なし。特に循環器、呼吸器、消化器疾患を持つ患者は禁煙が絶対条件となる。しかし、なかなかやめられない。禁煙によってイライラしたり集中できないといった禁断症状が出るためだ。この身体的な訴えを軽減するため日本でもニコチンガムが発売された。既に53カ国で発売され、32力国では一般用医薬品として取り扱われている。

ニコチンガムによる療法は、薬物依存症の治療に用いられる置換療法の一種。たばこが吸いたくなったら、その代わりに1回30分間ニコチン入りのガムをかみ、徐々に放出したニコチンを口腔(こうくう)粘膜で吸収して禁断症状を緩和する。1日6~12個から始めて30個が限度。約3カ月間使用するが、この期間は血液中のニコチン濃度が上がり過ぎないよう当然禁煙が必要だ。

たばこがやめられないのはニコチンだけが原因ではなく、習慣や環境による要因も大きい。国内で行われた臨床試験では400例中164例に効果があった。グループカウンセリングをしながら行った例では71例中43例とさらに効果を上げている。

外国ではニコチンガムを医師の管理の下に使用しなかったために、ニコチンガムによる依存性が生じた例がある。十分な管理が必要だ。ニコチンガムは禁煙補助剤でまだ保険が適用されていないなど今後の動向が注目されるが、禁煙のための有力な手段となりそうだ