『第164話』 筋弛緩剤を用い収縮や緊張抑制

手術の際、麻酔と同じくらい重要なのが筋弛緩(しかん)剤である。筋弛緩剤は筋肉の収縮や緊張を抑え、筋肉を柔らかくして手術をやりやすくする。

生体にメスが入ると、痛みという情報に対して心拍数の増加や血圧の上昇、瞳孔(どうこう)散大などさまざまな生理変化が起きる。麻酔の効いた患者は意識がないので、こうした変化を自覚しない。しかし、痛みに対する反射はあり、手術部位の筋肉は過剰に収縮する。

腹部の手術であれば、腸がおなかの外へ押し出されて内部がよく見えず、細かな作業が困難になる。また、骨折による強い筋肉の収縮も手術を困難にする。

麻酔そのものにも筋弛緩作用はあるが、筋弛緩剤と同様の効薬を得るには危険なレベルまで麻酔を深くする必要がある。しかし、筋弛緩剤を用いると、浅い麻酔でも筋肉を十分に柔らかくすることができる。

手術に使用されるのは末梢(まっしょう)牲筋弛緩剤。筋肉と神経の接合部に作用して反射を阻止する。このため、四肢の筋肉は麻痺(まひ)して動かなくなる。もちろん、呼吸をつかさどる筋肉も働かないため、麻酔器を使って人工呼吸をしなければならない。

筋弛緩剤は、この呼吸筋麻痺という作用を使って動物の安楽死にも使用される。

末梢性の筋弛緩剤は脳や脊髄(せきずい)に作用しないので、もし麻酔なしで使用すると、意識がはっきりしたままで体が動かない、呼吸ができないという苦しみを受けることになってしまう。

末梢性の筋弛緩剤は咽頭(いんとう)鏡、気管支鏡、食道鏡などの内視鏡検査でも使用される