『第169話』 隔離した感染症、天然痘ウイルス

地球上には約140万種もの生物が活動している。人間の産業活動や開発によって、13分に1種が地球上から消えており、人間は種の保存に躍起になっている。

しかし、逆に病原菌については、その絶滅を願ってさまざまな努力を続けている。

伝染病にかかると、感染の広がりを防ぐため患者を隔離するが、逆に病原菌を隔離してしまった感染症がある。それが天然痘だ。現在、原因となる天然痘ウイルスは米国アトランタとモスクワの研究所で厳重に保管管理されている。

天然痘は痘瘡(とうそう)または疱瘡(ほうそう)ともいわれる。症状は突然の発熱、全身のけん怠感、激しい腰痛など。熱はいったん下がるが、再び高熱を発して特に顔、首、四肢の末端に多くの発疹(はっしん)が出る。これが水疱から膿疱(のうほう)となり、治っても皮膚にひどいアバタが残る。

6世紀ごろ中国から入った天然痘は、過去何度となく流行を繰り返し、多くの人を苦しめた。

しかし、天然痘ウイルスと近縁の牛痘ウイルスを用いた種痘が1796年、ジェンナーによって開発され多くの人が病魔から救われた。種痘の登場は免疫学の夜明けともいえる出来事だった。そして1980年、WHOは天然痘の撲滅を宣言した。

種痘に使われてきたのはワクチニアウイルス。興味深いのは、本来同じであるべきワクチニアウイルスと牛痘ウイルスとは別物であることが分かったこと。このワクチニアウイルスがどのようにして生じたのかよく分かっていない。

日本では10月から改正予防接種法が実施され、ワクチンの接種が義務制から個人の意思を尊重した推奨制に変わった。厚生省では、予防接種に関する正しい知識の普及を図るため予防接種ホットライン(予防接穂リサーチセンター内電話045・671・1858)を設置して、情報提供を始めている