『第177話』 血液製剤汚染に緊急の情報網を
先月22日、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)と診断された人が献血していたことが分かり、この血液が混入した原料血漿(けっしょう)から製造した人血清アルブミン製剤が予防的な措置として自主回収された。
CJDは100万人に1人程度の割合で発症する非常にまれな疾病。急速に痴呆(ちほう)が進行する点がアルツハイマー病と似ている。脳がスポンジ状に変化し、発病すると約7カ月で死亡する。アルツハイマー病と違うのは、CJDの患者の脳をつぶしてサルの脳に接種すると発病することだ。つまり感染性があるということだが、この正体を突き詰めていくと、分子量が27,000~30,000のタンパク質であった。
これまで、どのような生物でも増殖するためにはDNAかRNAあるいはその両方の核酸が必要と考えられていた。しかし、この感染性物質は核酸を持たない特異なタンパク質で、プリオンと名付けられた。
このプリオンは既知の病原体と異なり加熱、紫外線、薬液などの消毒法に対して異常なほどの抵抗性を示す。
人の感染例では、脳下垂体から精製した成長ホルモン製剤によって感染したと思われる外国での報告がある。
このほか、プリオンが原因と思われる感染症にクールー病やゲルストマン・ストロイスラー症候群などがある。クールー病はニューギニアの原住民が風習として人の脳を食べることから広がったと考えられる。
これらはCJDと同様に神経組織に病変を起こし、感染してから発病するまでの期間が非常に長いが発病すると進行が早い。
いずれの感染症も検査方法が確立されていないため、発症し死亡原因を調査しないと分からない。
フィルターろ過で除去できるという文献もあるが、血液製剤で感染するのかということも含めて確かなところは分かっていない。
エイズウイルスによる血液製剤の汚染は社会的問題になった。しかし、こうした緊急性のある報告を瞬時に伝達し、対応できる体制はいまだ整備確立されていない。