『第179話』 お屠蘇を飲んで“無病息災”願う
年の初め、お正月の行事に欠かせない薬酒がお屠蘇(とそ)だ。
中国の三国時代(200年ごろ)に魏の国で麻沸散という麻酔薬を使い、世界で初めて外科手術を行った名医華佗(かだ)が、魏の国の創建者曹操に献上したのが始まりとされている。
その名の由来には諸説あり「邪気を屠(ほふ)り、魂をよみがえらせる」とか「屠は殺すの意味、蘇とは病気を起こす鬼の名で、病原菌を殺すからきた」などがある。
処方内容もさまざまで、安土桃山時代の曲直瀬道三の処方は白朮(びゃくじゅつ)、山椒(さんしょう)、桂枝(けいし)、防風、桔梗(ききょう)の五味等量となっているが、中国の孫思●(そんしばく)が書いた「千金方」(640年ごろ)ではこれに烏頭(うず)、大黄、▲■(ばっげい)が加わった八味、丹波康頼が著した現存する最古の医書「医心方」(984年)は防風を除いた七味で、ともに悪気温疫を予防、治療する処方として載っている。
烏頭は毒薬、大黄は下剤で、この処方による屠蘇散を大量に飲んだため急性中毒で死亡したという記録が残っている。しかし、現在の処方は、先の五味に橙皮(とうひ)、陳皮(ちんぴ)、関西方面では丁字を加えた内容で心配はいらない。処方内容から察するに防風は解熱鎮痛、桔梗は去痰(たん)、あとは芳香健胃剤で、感冒予防と胃腸の強壮が目的と考えられる。
日本には唐の蘇明が伝え、嵯峨天皇が弘仁元年(810年)元旦に宮中の儀式に献上したのが始まりといわれている。「古今要覧」(1842年)によれば、「屠蘇散を紅絹の袋に入れ、大みそかの日中に井戸に沈め、元旦の寅(とら)の刻(午前4時ごろ)に取り出し、温かい酒の中に浸して飲用する」となっているが、今ではティーバッグタイプの屠蘇が薬局で入手でき、みりんか酒に一夜浸して作る。そして、元旦「礼記」に習い、年少者から順に東に向かって長寿と無病息災を願って飲む。
元旦にはわが家でも、読者の健康を願ってお屠蘇を飲みたい。
は「しんにゅう」に「貎」、
は「くさかんむり」に「抜」、■は「くさかんむり」に「契