『第183話』 事故原因物質はフッ素樹脂粒子
スキーシーズン真っただ中、雪の付着や溶けた雪から衣服を守るため、防水スプレーが多く使われる。
最近になって防水スプレーによる事故が多発するようになった。厚生省は何度か事故防止を呼び掛けたが、昨年12月になって事故を起こした製品名を明らかにして回収を命じた。
事故が報告され始めたのはフロンが環境問題として取り上げられるようになり替噴射剤としてLPGが使われるようになってからだ。
防水スプレーは、撥水(はっすい)剤としてフッ素樹脂、これを溶かすトリクロロエタン、ヘプタン、ヘキサンなどの溶剤、そしてフロン、LPGといった噴射剤を成分とする。
フロンとLPGでは缶にかかる圧力が違うため、噴霧する部分の設計変更が必要になる。この設計変更でより細かな霧が噴霧されるようになった。しかし、これがまずかった。通常10ミクロン以上の大きさの粒子は鼻腔(びくう)、咽喉(いんこう)、気管支で除去できるが、これより小さい粒子は肺の奥深く肺胞まで進入してしまう。
当初、成分中の溶剤による急性中毒が疑われたが、その中毒症状はもうろうとなるシンナー様(よう)中毒であって、防水スプレーによって起こった咳(せき)、胸痛、呼吸困難といった症状とは異なる。
そこで着目されたのがフッ素樹脂だった。霧状となった小さなフッ素樹脂粒子が肺胞に入って付着すると肺胞が変化してつぶれ、酸素の交換ができなくなる。これによって、胸痛や呼吸困難を起こすことが分かった。
さらに、近くにたばこの火(900度)などの熱源があると危険度が増す。フッ素樹脂は500度以上の温度でパーフロロイソブチレンやフッ化カルボニルといった熱分解生成物を生じる。特に前者は青酸ガスの500倍の猛毒物質だ。当然、噴霧された小さな粒子はストーブなどの熱でより分解しやすくなる。
防水スプレーを使用するときは近くに熱源がないか確認し、換気に注意しながら防塵(ぼうじん)マスクを着用して噴霧することが肝要だ