『第186話』 アルカリ性好み酸に弱いコレラ
「国外に出たらなま水となま物には気を付けろ」と言われる。しかし、安く食べられるロブスターや果物に舌鼓を打ちたくなる気持ちも分からなくはない。
先月6日、バリ島旅行から帰国した女性がコレラにかかっていることが分かって以来、患者が相次いでいる。コレラ患者は200人を超え、昨年1年間の患者数87人をたった1カ月ではるかに上回ってしまった。
特徴的なのはほとんどがバリ島帰りであったことだ。しかし、バリ島現地でも一度にこれほどの患者が出たことは過去になく、インドネシア政府も首をかしげている。
コレラはインドのガンジス川流域の風土病であった「古典型」と、かつてインドネシアのセレベス島に局在し、エジプトのエル・トール検疫所で分離された「エルトール型」がある。
コレラにかかると、米のとぎ汁のような水様便を特徴とする下痢があり、排便回数は1日20回以上になる。このため、著しい脱水症状から血液の電解質に異常を来し、虚脱、昏睡(こんすい)を起こす。
通常、コレラでは発熱や腹痛はない。現在の主役は「エルトール型」で病原性が非常に弱く、軽い下痢症状で終わってしまうことが多い。このため、コレラとは気付かず軽い下痢ぐらいで済まされ、治ってしまうこともある。
コレラにかかると免疫ができるので、現地の多くの人はかかりにくくなっていると考えられる。
コレラにかかりやすくなる原因は胃酸の分泌量と関係がある。コレラはアルカリ性を好み酸に弱い。従って、なま物を食べても胃酸で殺菌されてしまう。しかし、食べ過ぎたり制酸剤を飲んだりしていると、この効果が弱くなる。また、胃の切除を受けた人や高齢者に多い胃酸分泌量が少ない人は重症化しやすい。
コレラの治療はとにかく輸液や経口で水分の補給を行って毒素を薄め、テトラサイクリンなどの抗生物質で殺菌しながら、早く体外にコレラ菌を排出すれば腸管にダメージを与えることはない。
外国でも暴飲暴食は慎むべきだ