『第191話』 舌の上で効果発揮、ニトログリセリン
グリセリンという薬品名を聞いて、ダイナマイトの原料が思い浮かぶとしたら、あなたは危険人物かもしれない。
グリセリンは非常に応用範囲が広く、保湿剤として化粧水に加えるほか、かん腸液や点滴で脳内や眼内圧力を下げる薬としても使われる。
ダイナマイトの成分はニトログリセリンで、簡単な実験装置で製造が可能だ。かつてグリセリンを含む冷却水を分析する途中で、ニトログリセリンが生成してしまい目の前で爆発事故が起こったことがある。それほど簡単にできてしまう。
液状のニトログリセリンは非常に危険で爆発しやすい。ダイナマイトはこれを珪藻土(けいそうど)に染み込ませて安全性を高めている。これを発明したのがアルフレッド・ノーベルだ。
またニトログリセリンは狭心症発作の特効薬として使われる。狭心症の治療は1867年トーマス・ブライトンが亜硝酸アミルの蒸気を吸入させて治療したのが始まりだ。
硝酸化合物のニトログリセリンにも同様の作用があることが分かっていた。しかし、ニトログリセリンをアルコールで薄めた液は舌の上に落とせば効果を発揮したが、これを飲み込んでしまうと全く効果がないため20年近くその効果の真偽が論議された。
これはニトログリセリンが消化管から吸収された後、肝臓で代謝されて効果を失ってしまうためであることが分かった。口腔(こうくう)の粘膜から吸収された場合は肝臓を通らないので効果が表れたわけだ。最近では皮膚から吸収させる製剤や口腔内に噴霧するエアゾール式の製剤も使われている。
このほかの硝酸化合物では、遅効性で作用時間が長い硝酸イソソルビドがある。
ニトログリセリンは揮発しやすいため、最近の舌下錠はアルミで包装している。包装が破れ、開放された状態になると3カ月程度で効果が低下するので保存方法に注意する必要がある