『第192話』 病気の偏見と差別、正しい認識が必要

人は必ず病気にかかる。私も二種類の法定伝染病にかかった。一つはしょうこう熱、も一つはジフテリアだ。しょうこう熱は今では溶連菌感染症の一群としてとらえられ、抗生物質の出現で恐れる病気ではなくなった。ジフテリアも抗生物質や血清療法で完治が可能だ。

しかし、いくつかの伝染病は間違った認識から恐ろしさだけが語られ、患者に対する偏見と差別を生むことになった。

1907年に制定されたらい予防法にはらい患者の強制隔離が定められ、これは1953年に改正された現行法にも受け継がれた。現在は空文化してはいるが、患者の外出は親族の死亡などの特別の事情があり、かつ外出によって重大な支障が生じないことが条件とされ、これに違反すれば拘留または科料の罰則が科せられることになっている。

らい病は1873年ノルウェーのハンセンによって発見されたらい菌によって起こる慢性伝染病だ。かつては感染経路がつかみにくく、家族内での発生が多いため遺伝病と誤解されてきた。

らい菌は結核と同じマイコバクテリウムに属し、皮膚や末しょう神経に病変を起こす。感染力は結核菌などよりもはるかに弱く、多くの大人は免疫力を持っている。従って感染するのは濃厚な直接接触を受けた幼児期がほとんどだ。

しかし、治療法が未熟な時代には重症になることが多く、治っても残る手足の変形や皮膚疾患から起こる形相の変化が社会的に患者を抹殺していく要因になった。

現在では特効薬プロミンやリファンピシンを組み合わせて使う多剤併用療法によって完治する。

日本らい学会はこのほどらい予防法を廃すべきだという画期的な結論をまとめたが、常に疾病を恐怖心だけでみると偏見と差別を生むことになる。感染症対策がどこまで人権を制限できるのか結論は見いだせないが、エイズ対策を含め正しい認識の啓もうが必要だ