『第195話』 グレープフルーツと降圧剤との相互作用

体の中に吸収された多くの物質は代謝を受ける。薬物も同様に肝臓で代謝されている。ここでいう薬物とは単に薬だけではなく、殺虫剤や食品添加物をも含めた話だ。本来こうした薬物は生命を維持するために必要なものではないためゼノバイオティクスと呼ばれている。しかし、体内に入った以上は何とかしなければならない。薬物代謝といっても対象としているゼノバイオティクスの数は無限にある。この物質が相互に複雑に関係し合いながら体内で代謝される。

薬物は主に肝臓で代謝されるが、そのかなめとして働いているのがチトクロムP-450(CYP)だ。

酸化還元反応をつかさどる酵素の総称をチトクロムといい、ヘモグロビン(血色素)と同じように鉄を含む。CYPにはさまざまな種類があり、一つのCYPで複数の薬物代謝が行われる。これがまた相互作用を起こす原因にもなっている。

グレープフルーツの苦み成分はナリンギンと呼ばれオレンジなどには含まれていない。これが特定のCYP3A4の働きを阻害してしまう。するとこの酵素によって代謝されるはずのジヒドロピリジン系カルシウム拮抗(きっこう)剤(降圧剤)が代謝されず血液中濃度が上昇し、頭痛、顔面紅潮などの副作用が増大する。従ってグレープフルーツジュースの飲用を控えなければならない。

こうした例は医薬品の場合にもみられる。テオフィリンとプロプラノールは同じCYP1A2で代謝されるので同時に服用するとともに代謝が遅れ、副作用が強く出る。逆にたばこはこの酵素を誘導するので代謝が速まるといった具合に非常に複雑だ。肝臓で代謝される薬物は非常に薬物相互作用を起こしやすいが、さらにCYPの研究が分子レベルで進むにつれて薬物相互作用の予測ができるようになることが期待されている