『第197話』 寄生虫症が増加中、肉類などは加熱を
関心の薄れた疾病に寄生虫症がある。戦前から昭和20年代にかけては、国民の70%が寄生虫症にかかっていたといわれている。しかしその後、学童の集団健診、衛生管理教育の充実や上・下水道の整備などの衛生環境の改善、農業形態の変化によって寄生虫症は激減した。
しかし、ここのところ再び寄生虫症が増加してきている。
寄生虫症は単細胞の原虫・多細胞の蠕虫(ぜんちゅう)といった微小動物が人間の体内に入ったり、皮膚に付着して感染症を起こす。
原虫の代表的なものにマラリア、トリコモナス、赤痢アメーバがある。蠕虫は二種に分類され、袋形(たいけい)動物門には蟯虫(ぎょうちゅう)、回虫、アニサキス、フィラリアなどが、扁形(へんけい)動物門には日本住血吸虫や肝吸虫が分類されている。
近年増加している背景にはいくつかの要因がある。第一には、自然食ブーム。化学肥料が有機栽培に戻り、再び人や家畜の糞尿(ふんにょう)が非加熱で使われはじめていること。
第二にペットブーム。寄生虫だけではなく人畜共通感染症には100種類以上あり、濃厚な接触による感染が考えられる。
第三はグルメブーム。輸入食品の増加とゲテモノ食い。カエルや蛇の刺し身によるマンソン孤虫症、ドジョウの躍り食いによる顎口(がくこう)虫症が見られるようになった。
第四に海外での感染が増加していることが挙げられる。依然として発展途上国では寄生虫症はありふれた疾病であることを忘れてはならない。
寄生虫症を防ぐため、生野菜はとにかくよく流水で洗うこと。肉・魚類は加熱処理してあればまず安心だ。
日本近海(特に日本海で捕れる魚に多い)で捕れるサバ、タラ、イカには激しい腹痛を起こすアニサキスが寄生していることがある。アニサキスは氷点下20度以下にすると数時間で死滅する。従って、冷凍ものであれば心配ない。
寄生虫症は特定できる症状もなく、その種類も多いので診断が難しい。症状だけではなく、食生活、ペット、海外渡航歴など詳しい申告が診断の手掛かりになる