『第201話』 現代でも通用するダビンチの解剖図

人類の祖先は200万年前に出現した。それが進化し、学名ホモ・サピエンスとして現代人が現れたのは5万年前である。それ以後、解剖学的にはほとんど進化していない。

アリストテレスは形而上学の中で「すべての人間は生まれながらに知ることを欲する」と述べている。物の仕組みがどうなっているか、人体の構造がどうなっているか、知的好奇心は解剖学を生んだ。

最初の解剖図が描かれたのがいつだったのか、アリストテレス(紀元前4世紀)の本に載っていたともいわれているが現存せず、よく分からない。12、3世紀の解剖図は平面的で実在感のないものだった。

現代解剖学は1543年アンドレアス・ヴェザリウスの大著「ファブリカ」によって幕開けする。

しかし、これより50年前にルネサンスの写実主義を背景に解剖学を飛躍的に進歩させた天才的職人がいた。それは、レオナルド・ダビンチである。この時代、果たして解剖学がどのような学問的な価値があったかは分からない。だが、30体を超える人体解剖を行い、卓越した観察力でち密な解剖図779枚を描いている。

驚かされるのは、老人では動脈硬化が起こることや胎児と母体間は血管でつながっているのではなく胎盤が存在することなど、後世明らかになっている事実が多く描かれていることだ。

特に関節を描いた図は現代でも通じるものだ。いかにして人間は動くのかといった問いが聞こえてくるようだ。

41点の素描画を集めたレオナルド・ダビンチ人体解剖図展が30日まで東京都庭園美術館で開催中、9月からは愛知県美術館で開催される。

ダビンチが生涯で完成させた絵画は9点しかない。芸術とは科学的知識に基く想像的行為とダビンチは述べている。ダビンチは解剖学の知識に衣をまとわせ、最高の芸術を生みだした