『第207話』 レジオネラ肺炎、冷却塔が感染源

人が集い、生活をするための条件によって形づくられる環境を社会的生活環境という。伝染病の発生や分布に、この環境が密接に関係している。

1976年の夏、米国フィラデルフィアのホテルで在郷軍人会が開催された。この参加者やホテル周辺の通行人などに原因不明の重症肺炎が集団発生し、罹患(りかん)者221人のうち、29人が死亡した。

不名誉にも在郷軍人病と名付けられてしまった急性肺炎は米国が行った調査によって、これまで報告のなかった新たな細菌による感染症であることが明らかになった。

症状によって二種類に大別される。乾性の咳(せき)が早期に出現し、発病3日以内に発熱があり、健忘症、傾眠、幻覚といった精神・神経学的異常を特徴として重症化する肺炎型と主症状が発熱で、咳、腹痛、下痢などの症状があり多くの患者の場合、5日以内に無治療で回復するポンティアック熱型(非肺炎型)である。

レジオネラ菌の生息地は土壌、河川、湖だが、感染源として問題になっているのが空調用冷却塔の水だ。ビルの合間を歩いていると冷たい水が落ちてくることがあるが、冷却塔からエアゾール状になって飛散した水が空気取り入れ口や換気のために開けた窓から入り感染すると考えられる。

特に8~9月は細菌数も増えるので、清掃や殺菌剤などを使うといった予防対策を取ることが必要だ。

症状だけでレジオネラ肺炎をほかの細菌による肺炎と区別することは難しく、細菌学的な同定や血清抗体価の検査が必要だ。

治療にはマクロライド系抗生物質のエリスロマイシン、ニューキノロン系の合成抗菌剤物質、抗結核薬のリファンピシンが有効で、日本で多用されるセフェム系やβ-ラクタム系、アミノ配糖体の抗生物質は無効だ