『第208話』 代謝受けない薬、患者投与慎重に

薬が体内を巡った後、主に行き着く所は尿だ。尿中に排泄(はいせつ)されるには薬が水に溶けやすい形になっている方が都合がよい。

多くの薬は脂溶性(油に溶けやすい)で、この方が細胞膜への親和性(なじみやすさ)が高い。薬が体内に取り込まれて効果を発揮する場所にたどり着くまでには、何度も細胞の膜を通り抜けなくてはならないからだ。

しかし脂溶性の薬も体内のさまざまな酵素によって水溶性の高い物質に変えられ、排泄時にはもとの形とは違ってくる。このことを代謝と呼んでいる。一般に代謝を受けた物質はもとの形よりも毒性が少ないか全くない。

従って代謝を受けずにもとの形のまま排泄されるような薬は高齢者はもとより、腎(じん)機能障害のある患者に対しては慎重に投与されなくてはならない。

腎臓の排泄機能は30歳ぐらいから落ち始め、10年ごとに10%ほどの割合で低下していく。健康な70歳の人でも30歳の人に比べると腎臓の働きは半分くらい。例えば高齢者が腎臓で処理、排泄される薬を若い人と同じ量たけ飲むと、体に蓄積される量は2倍になってしまう。薬が体内に過剰に蓄積されると当然、副作用が生じる。

アミノグリコシド系抗生物質はもとの形のまま排泄される一例で、血清クレアチニン値や血中濃度を測定しながら投与量を調節しないと第八脳神経障害(聴力障害)や腎機能障害を招く。ほかにも抗アレルギー剤のクロモグリク酸、筋無力症治療剤のグアニジンなども未変化のまま排泄される。

高齢者や腎臓の機能が低下している患者に対しては一部の薬を除いて特に投与指針がなく、まだまだ医師のさじ加減が要求されるところだ