『第211話』 昔のシベリアで毒キノコの宴会
キノコ狩りのシーズンがやってきた。怖いのは毒キノコだが、ベニテングタケのように赤いかさに白い斑点(ほんてん)のあるキノコはいかにも毒がありそうで分かりやすい。
毒キノコといっても致死率が高いものと、毒性は弱く幻覚をもたらすものなどに分けられる。
中毒死する代表例はタマゴテングタケやドクツルタケ。これらは食用キノコによく似ていて、1個のキノコを食べただけでも、6~12時間ぐらいで腹部にけいれんが起き、コレラに似た激しい嘔吐(おうと)と下痢が続いて呼吸困難となる。いったんは症状が治まって回復したかに見えるが、次第に肝臓の組織が破壊され3~8日後には黄疸(おうだん)やこん唾を起こして50%は死亡する。
死に至るまでの時間が長いため、被害者にキノコを食べさせ、その後、加害者に都合のいい遺言を書かせるといった毒殺者もいた。
ベニテングタケは色は毒々しいが、毒性はそれほど強くなく、古代から幻覚剤として使われてきた。このキノコは昔、すりつぶし、家の壁に塗って虫よけに使ったので、ハエトリタケとも呼ばれる。
このキノコの幻覚作用は1時間ほどで現れ、幸福感を味わう者もいれば、恐怖感を味わう者もいる。踊ったり、叫んだりする者もいて、躁病(そ。うびょう)の状態になるといわれる。
1700年代のシベリア東北部では裕福な者たちが宴会でこのキノコを食べ騒いだという。貧しい者たちはキノコを食べた者たちの尿を飲み興奮したという記述がある。現在でもシベリアのいくつかの部族の間で利用されている。
毒キノコもあれば、薬になるキノコもある。カワラタケやシイタケから抽出した成分は免疫力を高める作用があり、がん患者に対し、化学療法剤と併用することで効果を上げている