『第219話』 パスツールが低温殺菌開発

微生物学黎(れい)明期における三大微生物学者といえば、ドイツのローベルト・コッホ、北里柴三郎、そしてフランスのルイ・パスツールだ。

パスツールは1895年9月28日72歳の生涯を閉じた。従って本年は生後百年に当たる。

パスツールの名前は、パスツリゼイション(低温殺菌法)に残っている。これは、65度程度の温度で30分間加熱する方法で、ロングライフ牛乳の殺菌法として現在でも使われている。これはもともと、ワインの殺菌法として開発された。高温で処理するのと違いこの方法で殺菌すれば、風味が損なわれず、腐敗を防ぐことができる。

また、「生物は神が造りたもうた」という生物の自然発生説を実験によって科学的に否定したことでも知られる。ハクチョウの首の形に屈曲させたフラスコに肉汁を入れ、管に入る微生物は屈曲した部分でたまって肉汁までに到達しないようにする。これを二つ用意して、一方を加熱処理する。すると加熱しなかったフラスコの肉汁は微生物が繁殖し、腐敗して濁る。しかし、加熱した方は腐敗せず透明なままだった。この腐敗しない肉汁は今でも無菌状態でパスツール研究所に保管されている。

このほか、狂犬病ワクチンを開発したことでも有名だ。

冒頭、微生物学者としてその名を挙げたが、それ以前は物理化学者だった。その証拠に、酒石酸の結晶構造を調べ、光学活性物質を広範囲に研究し、体系化した。酒石酸の研究では後に証明されることになる光学活性物質の立体構造が実像と鏡像の関係にあることも指摘されていて、これらが現代の有機立体化学の基礎になった。さらに、アミノ酸にも光学異性体があるが、なめると味が違うことを報告している。そして、微生物が光学異性体の一方だけを選択して利用することを見いだした。

現在も三大微生物学者の名前が付いたそれぞれの研究所では先駆者の精神を引き継ぎ研究活動を続けている