『第220話』 クロロホルムは体内で毒に変化

浴室内でクロロホルムなどのトリハロメタン温度が通常の大気より高いことがことしの大気環境学会で指摘されたが、これは極めて低濃度であり心配はない。

クロロホルムは塩素消毒を行うことによって、水中の有機物の量に比例して生成する。実際にこれ以外の物質も生成されていて、これらを総称してトリハロメタンという。これが加熱され、空気中に拡散して密閉された室内のクロロホルム濃度が上がる。

クロロホルムという名称は19世紀に初めて合成されたとき、サラシ粉(クロロカルキ)とギ酸(フォルミック・アシド)を原料としたため、その原料の名称を合成してつけられた。

麻酔作用があるため数々の推理小説に登場する。1847年イギリスの産婦人科医シンプソンが初めて無痛分娩(ぶんべん)にクロロホルムを使ったのが始まりだ。これより1年前に麻酔薬としてエーテルを使った外科手術の公開実験が行われていて、既にエーテルが使われ始めていた。しかし、シンプソンが用いてわずか3カ月後に最初の犠牲者が出たにもかかわらず、麻酔医スノーがビクトリア女王の第八王子出産時に使って成功したため、女王陛下の麻酔薬として特にイギリスで使われることになる。エーテルの欠点は引火・爆発性と刺激臭があることだが、クロロホルムにはないことから使いやすかったとも考えられる。

このころは特別な気化器もなく、ただガーゼに麻酔薬を染み込ませて口元に近付けて吸入させるという大変荒っぽい方法だった。

クロロホルムは現在麻酔薬としても医薬品としても全く使われない。これは、クロロホルムが体内でホスゲンという毒物に変化し、肝臓や血液に障害を起こすからだ。さらに発がん物質でもある。エーテルは現在でも医薬品として名を連ねているが、ほかに亜酸化窒素(笑気)ガスやイソプレンなどの安全で使いやすい吸入麻酔薬があるので、これもほとんど使われなくなった