『第229話』 本来の名前より別名面白い植物
植物は本来の名前よりも別名の方がその植物のバックグランドが分かって面白い。
ヒガンバナの別名は曼珠沙華(まんじゅしゃげ)だが梵語(ぼんご)で天上の花を意味する。全草にリコリンという有毒アルカロイドを含み、花茎の汁に触れただけでも皮膚炎を起こすことがある。特に球根部分が猛毒で、飢きんのときにそれすら食べてしまい間違いなく昇天した農民も多かった。
似た名前に曼陀羅華(まんだらげ)がある。こちらはチョウセンアサガオのことだ。江戸時代の医師華岡青洲がこれから麻酔剤を作り、乳がん手術に成功している。チョウセンアサガオはナス科に属し、全草が猛毒だ。葉の汁が飛び散って目に入ると瞳孔(どうこう)が散大して失明状態になるほどだ。しかし、毒は使いようによって薬になり、この植物に含まれるアトロピンやスコポラミンといったアルカロイドからは鎮痛剤や鎮痙(ちんけい)剤、乗り物の酔い止め、胃かいようの薬、制汗剤などさまざまな薬を作ることができる。
実際華岡青洲も、麻酔剤としての量を決めるのには苦労した。結局実験台になった母は死に、妻は失明した。しかし、人の知恵はこれを克服している。
チョウセンアサガオの中毒は激しく、口が渇き、声はしわがれ、体が震えてくる。幻覚も表れて、心臓まひで死ぬまでわめきちらしたり、暴れたりするので、気違い茄子(なすび)の別名もある。曼陀羅華とは梵語で、これを眺めれば心に悦楽が満ちる聖なる花という意味だが、間違ってこれを口に含めば地獄の花となる。
誤食による中毒事故が後を絶たないものに毒芹(せり)がある。こちらはどういうわけか延命竹などと呼ばれる。
また延齢草というユリ科の植物がある。これは根茎を干して胃腸薬にするが、量によっては下痢が止まらず、脱水症状を起こす。その昔は食い過ぎや食あたりした人に吐かせる目的で使ったらしい。おかげで寿命が伸び.たというからこの名前がある