『第244話』 癪を止める効果、熊の胆でも実証
昔は胸部や腹部にかけての激痛を「癪(しゃく)」といった。こうした痛みの原因に胆石症がある。
胆石は胆汁の成分が固まったもの。肝臓では毎日胆汁が500~1,000ミリリットル作られている。ひどいおう吐の際に出てくる苦くて黄色い液体だ。
主な成分は胆汁酸およびその塩、レシチン、コレステロール、ビリルビンで、97%は水分。
肝臓で作られた胆汁は胆のうで5~15倍に濃縮・蓄積され、食物が十二指腸にまで来たときにだけ排出される。体内老廃物の排出と腸管内で脂肪や脂溶性ビタミンの吸収を助ける作用を併せ持つ。
胆石は胆汁の通り道のどこにでもできるが、80%は胆のう結石だ。胆石の種類を大別すると、コレステロール系とビリルビン系およびその混成・混合結石に分けられる。戦前はビリルビン系が70%だったのに対し、食事が欧米化した最近は、コレステロール系が80%以上を占める。
胆汁酸およびその塩とレシチンには、せっけんと同じように水に溶けないコレステロールやビリルビンを乳化して、水溶性にする作用がある。肝臓から過剰のコレステロールが分泌されるなど、バランスが崩れると結石ができる。
胆のう結石の治療には、外科的治療と非外科的治療がある。
胆のう機能が正常で、結石が1、2センチと比較的小さく、表面が石灰化していない純コレステロール結石かコレステロール混合結石であれば、溶解療法が使える。ケノデオキシコール酸とウルソデスオキシコール酸を単独もしくは併用して内服する。
薬の名前になっている「ケノ」はガチョウ、「ウルソ」とは熊(くま)のことで、それぞれの動物の胆汁酸主成分だ。胆汁酸は胆汁の中のコレステロールを減らす効果を発揮して結石を溶かす。ちょうど過飽和食塩水の溶液から食塩を取り除けば、結晶が溶け出すのと同じ働きだ。しかし溶解には3カ月から1年を要し、再発の可能性もある。
ウルソデスオキシコール酸を主成分とする熊の胆(い)は苦味健胃、鎮痙(けい)剤として使われたが、一部の癪を止める効果が実証されている