『第245話』 生薬をベースに植物保護の農薬

中国は4、5年前から、従来の化学農薬に頼らず、農作物や環境を汚染しない「植物農薬」による有機農法を推し進めている。人間の病気を治す生薬が植物の病気にも良く効くことは、中国の古代文献に紹介されているが、最近になって、それらをどう組み合わせ、どれくらいの濃度で使えば良いかという研究が行われている。

約2000年前に書かれた中国の薬に関する最古の書物に「神農本草経」がある。神農は古代中国の伝説上の帝王で、植物の葉や根、皮などをなめたり、かんだりして効能を調べ、165種類の薬草についてまとめている。

その中に、楝樹(れんじゅ)についての記載があり「実は苦く、熱を抑え、三虫を殺傷し、小便の通じがよくなる」と述べている。

また楝樹の一つ苦楝樹(くれんじゅ)の葉や花、実などをむしろの下に敷いたり、厠(かわや)に投げ込んだりしてシラミやウジを駆除する方法も詳しく紹介している。人間の虫下しとして使われた楝樹が、殺虫剤としても効果があったことが分かる。

植物が昆虫に傷つけられたり、微生物と戦うとき自らを守るためにアルカロイドやアミノ酸などを出すことも分かってきた。以前から利用されてきた植物の有効成分にこれらのアルカロイドを配合したものが、これからの農薬として注目されている。

この農薬は植物の保護を目的として作られているので植物保護液とも呼ばれる。もともと人に用いてきた生薬がベースになっているので、化学農薬のような毒性がないことが最大の特徴といえる。

楝樹はセンダンともいわれ、日本では伊豆半島より南の暖かい土地で見られる。苦楝樹の有効成分である苦楝素をはじめ、クララ、カワラニンジン、ケショウヨモギ、タマビャクブ・ソウキョウといった生薬から成る製品が、日本では数種販売されている