『第246話』 特定の薬と食品、思わぬ相互作用
結核は戦前、回復不能の病気だった。結核に有効なストレプトマイシンが登場した戦後も、しばらくは国民の栄養状態が悪く、回復に時間がかかった。医療費の支払いも、なかなか社会復帰できない患者にとって、精神的苦痛の一因だった。
間もなく抗結核薬イソニアジドと同類のイプロニアジドを服用した結核患者の精神状態が明るくなるという現象が起きた。
調べてみると、アミンという物質が脳の中で分解されずに保たれていることが分かった。また以前から、老人性うつ病の原因は、アミンの減少によることも知られていた。つまりイプロニアジドはアミノを分解する酵素を阻害し、アミンが減らないようにすることで気分を高揚させていたのだ。
イプロニアジドをモデルに新たな抗うつ剤が次々生まれた。アミンを分解する酵素はモノアミン分解酵素といい、略してMAO。この酵素を阻害する薬剤をMAO阻害剤という。
体内に入るとアミンとして働く物質・チラミンを含んでいる食べ物がある。これらとMAO阻害剤を一緒に摂取すると必要以上にアミンが増え、高血圧を招くことがある。この症状はフランス人に際立って多かったため、チーズがこれらの食品の一つに入る、と早くから指摘された。
ほかに、ワイン、ビール、カタツムリ、チョコレート、アボガド、ニシンの漬物、ソラ豆、鶏の肝臓、イースト、大量のコーヒーなども同じ症状を引き起こす。最も危険なのは年月を経たチーズと食品添加物として使用されるイーストという報告がある。
思わぬ相互作用は、いくつかの薬の飲み合わせだけではなく、特定の薬とある食品を一緒にとったときにも表れる。納豆と抗凝血剤のワーファリン、アブラナ科植物と甲状腺(せん)製剤、カリウムを豊富に含む食品と利尿剤-などは特に気をつけなければならない。かかりつけの薬局でこうした情報を得ることも必要だ