『第250話』 「O157」の予防に、手指の消毒重要
「O(オー)157」。死者を出した腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の原因菌として注目を集めている。
大腸菌には多くの種類がある。その大部分は非病原性で土壌中や人の腸管内にも常在している。
特定の大腸菌が下痢を引き起こすことは1920年代から知られていた。1982年、米国オレゴン州とミシガン州で食中毒が起き、初めてEHECが分離された。日本では「0157」による食中毒が84年に初めて、東京都の小学校で集団発生した。埼玉県浦和市の幼稚園で園児2人が死亡した90年の事件は記憶に新しい。現在、下痢病性大腸菌は、EHECなど5種類に分けられている。
大腸菌「0157」は、ベロ毒素を産出する病原性の菌だ。ベロ毒素は二つに大別され、その中の「VT1」は志賀赤痢菌が生産する毒素と同じものだ。ベロ毒素は、地球上で最も毒性が強いとされる三大毒素(ボツリヌス、ジフテリア、破傷風)に次ぐ毒力がある。
「Ol57」に感染すると①毒素のために赤血球が壊れ(溶血)、これが毛細血管をふさぐ細血管障害性貧血②止血の働きをする血小板の破壊③尿量が減り、代謝物が排せつできなくなって浮腫を起こす腎不全-を徴候とする溶血性尿毒素症症候群を引き起こす。回復しても高血圧や腎(じん)機能障害を起こす可能牲があるので、定期的な検査が必要になる。
確定診断には、下痢糞(ふん)便からEHECやベロ毒素を分離、患者血清の抗ベロ毒素抗体やEHECの抗O(オー)抗原抗体を測定するが、結果が出るまで数日かかり早期治療に役立たない。従って臨床診断が重要になる。
抗菌薬が有効だとする証拠はないが、ニューキノロン剤、ホスホマイシンが用いられる。下痢止めは病原菌の腸内停滞を長引かせるので使用しない。
重要なのは予防だ。焼く、煮る、蒸すなどの調理は理学的消毒法。EHECは75度、1分以上の加熱で殺菌される。食中毒が発生しやすい時期、手指の消毒を十分に行い、予防に努めたい