『第253話』 見直し迫られる、感染症の予防策
感染症に関して、私たちは対抗手段を完全に得ているだろうか。1996年のWHO(世界保健機関)年次報告では、新興、再興感染症に関する警告を発している。
新興感染症とは、エイズや、ザイールで流行したエボラ出血熱などの新たな病原菌、イギリスで多発した狂牛病のような特殊な感染症をいう。治療方法が確立されていないばかりか、エボラ出血熱のように感染源さえ不明な感染症もある。
再興感染症とは、結核やマラリアなど、制圧したかに見えた感染症が抗生物質の不適切な使用によって薬物耐性を得て、再び猛威を振るう危険性の高い感染症をいう。
これらの感染症は、寄宿動物の生態系の破壊、未開発地への進出、抗生物質の不適切使用など人為的原因によるものと考えていい。
1996年4月、東京で開催された日米首脳会談のコモン・アジェンダ(地球的展望に立った日米協力のための共通課題)では、地球規模で問題になっている新興・再興感染症の予防と制圧を新たな重要課題として取り上げている。
こうしたことや薬害エイズが明らかになったことなどを背景に、急速に感染症対策の見直しが図られつつある。
特に薬害エイズ問題では、外国からの情報を入手していたにもかかわらず、これを医療の場で生かせなかったことが指摘されている。この反省に立って、諸外国からの感染情報を収集、評価する感染症情報センターを新設し、情報提供を行うことは、ぜひとも必要なことだ。
また法律が制定された100年前に比べ、感染症の病態や治療方法も変化し、疾病の性質に応じた防疫態勢の見直しも必要だ。
こうした内容を盛り込み、伝染病予防法が百年ぶりに大改正されようとしている。厚生省は結核・性病・エイズ予防法や検疫法をも包括した総合感染症対策として平成10年に関係法案提出を目指している。
平均寿命が延びた日本では、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患が問題となっているが、いまだ世界の死亡原因の3分の1は感染症によるものだ