『第301話』 乳酸菌の発酵で、腸内の腐敗防止

1908年、ノーベル賞を受けたロシアの病理学者メチニコフは、「腸内の腐敗は寿命を短縮する」と述べている。(メチニコフ炎症論より)。

たとえば鳥やコウモリがわりあい長命なのは、よくふんをするからだという。空中生活をする彼らはできるだけ体重を少なくしたほうが飛ぶために都合が良く、よく腸内の内容物を排せつする。このため腸の中には食物残渣(ざんさ)がなく、有害物質が生じないというのだ。

一方、ほ乳類の大腸は長く、太く、中には細菌がうようよしている。普段は無害な大腸菌が勢力を張っていて、他の有害な細菌の繁殖を阻止している。大腸菌は食物の残りかすから体に有益なビタミンKのほか、酪酸や酢酸、プロピオン酸などの有機酸を作り出す。

特に酪酸が不足すると、大腸粘膜では水分や塩分の吸収ができなくなり、便は水様性になる。抗生物質を服用すると、副作用として下痢になりやすいのは、抗生物質が腸内細菌をも殺してしまい、この酪酸の生産を止めてしまうからだ。

さて、さまざまな理由によって、大腸の中の環境が変わり、腸内がアルカリ性になると、インドールやスカトールなどの有害な生産物を作り出す腐敗菌が優勢になってくる。これら有害物質が大腸から吸収されると自家中毒などを引き起こす。

そこでメチニコフは、生体に害を与えずに腸内の環境を酸性に変える方法があれば腐敗菌を防げると考えた。

それが乳酸菌による酸性発酵だ。腸内の乳酸桿菌(かんきん)が作る乳酸がアルカリ性を弱めて腐敗を防いでいる。乳酸菌を豊富に含むヨーグルトをとることは不老長寿につながるというのが彼の説であり、疫学的調査でも証明されている。