『第258話』 抗菌剤の多用、菌交代を助長

清潔にすることは健康を保つうえで好ましい。O157による感染症で国内が騒然としている今、除菌や殺菌という文字のついた商品が目につく。

すべての細菌は病気を起こす原因と考えられがちだが、そうでないものもある。

人の体の中にもさまざまな細菌がすみついている。健康な人の口腔内や咽(いん)頭、気管、腸管、膣(ちつ)などには、いつも一定の細菌がいて、これらを常在細菌叢(そう)、または常在菌と呼ぶ。のどや気管支には常在菌のほかに、わずかだが病原性の真菌や緑膿(のう)菌なども存在する。しかし普段は常在菌がこれらの繁殖を防いでいるため、病気の要因となることはない。

腸管にいる腸内菌叢にはビタミンKを産生する細菌がいる。ビタミンKは止血作用を持つビタミンで、腸管から吸収され、体内で利用される。

また腸内菌叢は食物繊維を原料にして酪酸という有機酸を作る。大腸はこの酪酸をエネルギーにして塩分や水分の吸収を行っている。

抗生物質を飲むと下痢を起こしやすくなるのは、腸内細菌が抗生物質にたたかれることによって死滅し、酪酸を作れなくなり、水の吸収ができなくなるからだ。

抗生物質は病原性細菌だけではなく、感受性を示すほかの常在菌も死滅させる。こうなると今まで常在菌の存在によって抑えられていたごく少数の真菌や緑膿菌などの病原性細菌が一斉に増殖を始め、体に害を及ぼす。

このような現象は菌交代現象と呼ばれ、強力な抗菌剤を頻繁に、また多量に使用していると起こってくる。

膣カンジダ症も菌交代現象により、膣内のカンジダ・アルビカンスという真菌が増殖して起こるが、抵抗力が落ちている糖尿病患者などに起こりやすい。

抗がん剤や免疫抑制剤、副腎(じん)皮質ホルモン剤などは、体の抵抗力を生み出すリンパ系の細胞を破壊してしまう。このような薬によっても菌交代現象が助長される。