『第262話』 「悪用」もあるが不眠解消に最適
日本人の睡眠時間は毎年、3日分ずつ減少していく傾向にあるという。自然のリズムとともに寝起きしていた昔は、暑さが遠のいたこの季節、心地よい眠りを楽しんでいたことだろう。
しかし、農民の場合はそうはいかなかった。秋はまさに収穫の時期であり、眠気は労働の妨げにしかならない。そこでこの睡魔を、秋が来る前に供え物と一緒に水に流そうという祭りが東北に起こった。それが「ねぶた」祭りだ。「眠たい」がその語源になっている。
とはいえ、昔も不眠症の人はいたわけで、精神安定剤や睡眠剤がなかったことを考えると、その苦しみは現代人以上だったかもしれない。
ハルシオンは、数ある睡眠剤の中でも売り上げの37%を占める有効な薬だ。しかし、酒と一緒に飲む人がいたり、大量に飲む「トリップ遊び」が流行するなど悪用さ.れ、有名になってしまった。
この薬はわずか15分ほどで効き始め、4時間ほどで効力は半分になる。そのため、次の日の仕事に支障をきたすことがなく、出張などで一時的に不眠に陥ったときなどにも適する。睡眠途中で一時的に起きて仕事をする可能性のあるときは服用してはいけない。途中の覚せい時に起きた出来事を記憶していないことがあるからだ。
ギリシャ神話に語られるカワセミは毎年、冬至のころに海上に浮巣を作り、風波を鎮めて卵をかえすという。この鳥は「ハルシオンバード」と呼ばれ、昔から海を鎮めるのだと信じられてきた。心のざわめきを鎮め、穏やかな眠りに就けることを願って、薬にこの名が使われた。
睡眠は疲労を取るだけでなく、気持ちを切り替えることができる。長い眠りから覚めると状況が変わっていた、という民話は各国にある。自分の周りが変わることもあれば、自分の考えが変わることもある。再出発の意味でも睡眠は重要だ。