『第264話』 使う身になって誤飲事故を防止

薬をカプセルの中に詰めたカプセル剤が登場したころ、カプセルをわざわざ外して中身だけを飲む人が後を絶たなかった。「そのまま飲んでください」という説明が浸透すると、今度はカプセルや錠剤が入ったプラスチックのシートごと飲む人が現れ、思いがけない誤飲事故が起きるようになった。

薬の一般的な包装は、PTP包装と呼ばれるもの。プレス・スルー・パックの略。これはプラスチックのシートをあらかじめ錠剤やカプセル剤の形にへこませ、これに錠剤やカプセルを入れてアルミニウムのフィルムで封印したものだ。プラスチック部分を親指で押し、フィルムを破って中身を出すようにしてある。

PTP包装された薬を1個分だけ切り離して見ると、角が意外に鋭くなっているのが分かる。中身を取り出さずにそのまま飲んでしまったため、鋭角部が食道粘膜に突き刺さり、それが原因で穿孔(せんこう)を起こして死に至る、といった考えられないような事故が起きたのだ。特殊な事故のようだが、今でも報告があり、減る傾向にないことから製薬企業はことし8月から本格的にPTP包装された薬の誤飲対策に乗り出した。

例えば、包装の裏面には中身を取り出す図案を必ず描くようにした。また、縦横に入っていたスリット(ミシン目)も、どちらか一方向だけになるようにした。こうすると1錠分を切り離しにくくなり、中身を押し出して飲むことに気付くわけだ。

座薬でも包装のまま、無理やり肛門(こうもん)に差し込んで傷つけてしまった例もある。

薬を説明する側も、分かり切ったこととして説明を省略してきたことは否めない。

今や薬は多種多様で、われわれ薬剤師でさえ使ったことがない薬も登場している。初めて薬を使う患者の身になって服用方法を説明し、誤飲事故の悲劇を招かないようにしたい。