『第266話』 よく利用される万能型抗生物質
気管支炎や中耳炎、ぼうこう炎、肺炎など、感染によって生じる病気には抗生物質が使われる。「抗生」とは生物に拮抗(きっこう)するという意味だ。腸チフスや赤痢といった腸管の感染症も今や恐れることはない。
感染症は、細菌やウイルスなどの病原微生物が生体に寄生して増殖し、それによって体内に変化が起こることをいう。
細菌は、細菌染色法を考案したグラム氏にちなんで名付けられたグラム陽性菌とグラム陰性菌に分けられる。陽性菌にはブドウ球菌や結核菌、ジフテリア菌、酵母などがあり、陰性菌にはチフス菌や赤痢菌、大腸菌、ペスト菌などがある。
抗生物質の特徴に選択毒性がある。これは、その薬がすべての微生物に効くのではなく、ある特定の微生物にだけ効くというものだ。グラム陽性菌またはグラム陰性菌のどちらに作用するかで抗生物質は大別される。
どの菌によって症状が引き起こされたのかを突き止めてから、抗生物質を選択するのが本来の使い方だ。ところが突き止めるまで薬を使えないとなると、症状が悪化することになる。そこで実際には、ペニシリン系やセフェム系と呼ばれるグラム陽性菌にも陰性菌にも作用する万能型の抗生物質がよく使われる。
人の細胞と細菌の細胞には構造上の違いがあり、抗生物質は感染した細菌にだけ作用する。
例えばペニシリン系やセフェム系の抗生物質は、細菌の細胞壁を溶かして細胞を死滅させる薬だ。動物の細胞には細胞壁がないので、人の細胞は抗生物質の影響を受けないことになる。
しかし、アレルギー体質の人の中には、ペニシリンに強い反応を示し、ショック状態に陥って命を落とす人もいる。
少しでも異変を感じたことがある薬については、その名前を記憶しておき、以後、医師が抗生物質を選択する際に必ず告げるようにしたい。