『第268話』 副作用の症状に味覚や臭覚異常

薬は「もろ刃の剣」などと表現される。薬には本来目的とする効果、すなわち薬効(主作用)がある半面、体に思わしくない作用も同時に存在する。それは薬自体が持つ副作用であったり、使用方法を間違えたり、多種類の薬を併用したために生じるものであったりする。

時には薬の主作用ではなく、副作用を期待して処方されることもある。アヘンの一成分であるリン酸コデインは本来、強力なせき止めの薬として使用されるが、副作用として便秘が確実に起こってくる。従って激しい下痢の患者に用いると、便秘という副作用の方が薬効になる。

抗ヒスタミン剤の塩酸シプロヘプタジンは、湿疹(しっしん)や蕁麻疹(じんましん)によるかゆみ、アレルギー性鼻炎によるくしゃみ、鼻水を止める。同時に摂食中枢を刺激して食欲を増進させるので、食欲不振時にも使用される。このような薬効は女性にとっては好ましくないかもしれないが、一つの作用にとどまらないのが薬である。

副作用の自覚症状としては、胃腸障害や薬疹が多い。においや味が分からなくなるという特殊な訴えもあり、これらは臭覚錯誤、味覚喪失、味覚倒錯といった言葉で表されている。

臭覚錯誤を起こす薬には抗がん剤のテガフールや消化性潰瘍(かいよう)剤の塩酸ロキサチジン・アセタートがある。

味覚異常を起こす薬は意外に多く、厚生省のモニター報告の中でも最も多く報告されるのは、リウマチやウイルソン病と呼ばれる肝レンズ核変性症を治療するペニシラミンという薬によるものだ。

味覚異常は体内の亜鉛が欠乏した結果、生じる、と考えられている。ペニシラミンは亜鉛と結合しやすく、それにより体内の亜鉛が減少する。ほかにも吐き気止めのメトクロピラミドをはじめ、肝臓の機能を回復させるグルタチオン、消化性潰瘍治療剤のL-グルタミン、降圧剤の一部にも味覚障害の原因となる薬剤がある。

食物の味が何となく分からないようなことが起こってきたら、いま一度、服用している薬をかかりつけ薬局などに持参して調べてもらおう。