『第269話』 原因不明確な本態性低血圧
高血圧に比べて低血圧はあまり問題になることがない。一般に上の血圧(収縮期血圧)が100ミリメートルHg以下で、下の血圧(拡張期血圧)が60ミリメートルHg以下の場合は低血圧症としているが、この数値の状態であっても、病気というわけではない。
出血など、さまざまな原因による重篤なショック状態に陥ったときの血圧低下を除けば、低血圧は体質的なものといわれている。また年をとるとともに上がってくる人もいる。
座ったり立ったりしたときに、めまいやふらつき、耳鳴り、頭痛などの自覚症状があるが、原因がはっきりせず、体位に関係なく血圧が低いのが本態性低血圧だ。
特に朝は弱く、食欲不振、悪心、嘔吐(おうと)感などがあり、肩凝りや体のだるさ、便秘、腰痛、しびれ感、手足の冷えなど自律神経失調症を訴える人が多い。
寝ている状態では血圧が低くないのに、起き上がったり、立ったりするときに急激に血圧が下がり、めまい、顔面蒼白(そうはく)、動悸(どうき)、失神などを起こすのが起立性低血圧だ。
降圧剤を服用していると、薬が効き過ぎてこのような症状を起こすこともあるが、血圧を上げるカテコールアミンという物質の分泌異常や循環血液量の低下、心機能の低下などでも起こる。
ショック時の血圧低下には、カテコールアミンそのものであるアドレナリンやノルアドレナリンの注射剤が使用される。
低血圧症を治す内服薬には、心臓の筋肉の収縮力を増して心拍出量を増加させる塩酸エチレフリンや、交感神経のα1受容体という部分を選択的に刺激して末しょう血管を収縮させる塩酸ミドドリンなどがある。
これらの薬は高血圧の人はもちろん、甲状腺(せん)機能亢進(こうしん)症の人には絶対に使用してはならない。