『第270話』 寄生虫予防は水源地保全で

ことし6月、埼玉県越生町で寄生虫「クリプトスポリジウム」による集団感染が発生し、町民の半数を超える8,000人が発症した。

感染源となったのは水道水で、汚染された水道原水が、浄水場を通って家庭に供給されていた。

聞き慣れない寄生虫だが、これに感染すると腹痛を伴う水溶性下痢が3日から1週間ほど続く。患者の免疫機能が働きだすと、原虫が増殖できなくなって自然治癒する。

クリプトスポリジウムは細菌やウイルスと違い、アメーバーやゾウリムシと同じ最も下等な単細胞動物で、胞子虫類の寄生性原虫に分類される。大型種と小型種があり、人が感染するのは小型種だが、エイズや抗がん剤を使用し、免疫不全を起こしていると大型種にも感染する。

問題は、水道水を殺菌するために通常用いる塩素では、死滅させることができないことだ。

また、水道水から除去することも難しい。感染動物が便と一緒に排せつしたクリプトスポリジウムは、オーシストという卵の状態になっている。卵は5ミクロン(1ミリの1,000分の5)程度の大きさで、簡易なろ過装置では除去できないからだ。

さらに、検便のように検査するわけにもいかず、大量の飲料水を特殊な落射蛍光顕微鏡を使って検査するには、専門的な鑑別技術が必要で、常に水質検査するのは不可能。100個程度の卵を飲んだだけで発症するので、一部の水を採取した検査で見つからなかったといっても、安全だとは言えない。

厚生省は8月、で水道環境部に「クリプトスポリジウム緊急対策検討会」を設置して暫定対策指針を策定した。この中で水の濁りをO.1度以下にする暫定対策指針を打ち出したが、これに従っても安全というわけではない。

もちろん対応策はあり、クリプトスポリジウムは加熱、冷凍、乾燥に弱く、水を煮沸することで予防できる。

発症を防止するために最も重要なのは水源地の環境を良好な状態に維持していくこと。環境問題に対する認識を高めることが必要だ。