『第272話』 開発望まれる痴呆症治療薬
イチョウの黄色い葉が舞い始め、例年より早い初雪に冬の到来を感じる。
日本各地にはイチョウ並木があり、天然記念物に指定された老巨木も青森から熊本にかけて30を超えるなど、日本人にはなじみ深い“紅葉樹”だ。
イチョウの語源は一葉(いちよう)からとする説や、葉の形が鴨(かも)の足に似ていることから近世中国語で鴨を表す「ヤーチャオ」に由来する説などさまざまだ。
イチョウの実、銀杏(ぎんなん)は茶わん蒸しの具や串(くし)に刺して焼き、酒のつまみにするなど食材として利用される。
銀杏に触れるとかぶれることがある。これは銀杏に含まれるギンナン酸やビロボールが接触性皮膚炎を誘発するからだ。銀杏を拾うときにはゴム手袋を着用することが必要だ。
また、銀杏の食べ過ぎは危険で、銀杏中毒を起こすことがある。中毒を起こす量は、人によってかなり幅があり、過去に小児が7粒で中毒を起こしたという例がある。
中毒を起こす成分は4-メトキシピリドキシンで、これがアミノ酸代謝に関係するビタミンB6の作用を阻害し、グルタミン酸から合成される脳内伝達物質のGABA(γ-アミノ酪酸)の生成を止めてしまう。GABAは脳内で中枢神経を抑制する作用を持っている。バルビツール酸系・ベンゾジアゼピン系薬物の催眠鎮静作用はこのGABAの作用を増強して薬効を発揮している。
従って、銀杏を食べ過ぎてGABAが不足すると中枢神経が興奮して痙攣(けいれん)、頻脈、嘔吐(おうと)といった中毒症状を起こすことになる。特に幼児は要注意だ。
ビタミンB6の摂取が十分な現代では、戦後のような死亡例につながることは少ないと思われるが、秋の味覚も食べ過ぎは厳禁だ。