『第286話』 胃液のバランス、崩れると不調に
食べ物が胃の中に入ると、その刺激で胃液が分泌される。胃液は塩酸、ペプシノーゲン、粘液の3つの液体が混じり合ったもので、正常な胃袋では、これらは時間差を伴ってバランスよく分泌されてくる。
塩酸は食物を殺菌する働きがあり、ペプシノーゲンはタンパク質を分解する消化酵素ペプシンの原料となる。粘液には酸や酵素で胃壁が溶けないように防ぐ役割がある。
胃の調子が悪い時には、このバランスが崩れている。
胸焼けやゲップという症状は塩酸が出過ぎる胃酸過多の状態だ。胃酸を中和する炭酸ナトリウム(重曹)や水酸化アルミニウムなどを配合した胃腸薬を食前や食間に服用するとよい。ただし炭酸ナトリウムは炭酸ガスを発生させるので、ゲップが多く出る人は、この成分を含まないものを選ぶことを勧める。
消化酵素が不足すると、胃もたれや食欲不振となる。健康な胃では、たいていの食べ物は2時間ほどで十二指腸に移行するが、消化されずにいつまでも胃の中に残っている状態が胃もたれだ。この場合、でんぷんを分解するジアスターゼ、タンパク質を分解するビオタミラーゼ、脂肪の消化酵素であるリパーゼなどを含む薬を、こちらは食後に服用する。
粘液の出が悪いと、胃が自らの胃液で溶かされてしまう消化性潰瘍(かいよう)に向かっていく。粘液を増やす薬は特にない。スクラルファートやグルタミン、アルジオキサといった成分が配合されている胃薬は、荒れた胃の粘膜や損傷部位を保護、修復する効果がある。
緊張やストレスで胃がヒクヒクと痙攣(けいれん)するような痛みを経験した人もいるだろう。これは胃の筋肉が緊張し、胃酸が過剰に分泌されたりすることによる。こんな時は、副交感神経を遮断するロートエキスや塩酸パパベリンが入った鎮痙鎮痛剤がよく効く。しかし、だ液の分泌が止まって口の中が渇いたり、瞳孔(どうこう)が散大する作用などがあり、緑内障や排尿障害がある人には使えないので注意が必要だ。