『第288話』 「解熱鎮痛剤」の重複服用に注意
痛みを抑える薬の大半が解熱鎮痛剤と表記されている。それは痛みと熱をもたらす原因物質が同じものだからだ。
その物質は、1930年に人の精液から発見されたプロスタグランディン(PG)と呼ばれるものだ。
体のどこかに炎症が起きたり、ウイルスに感染したりすると、脳の視床下部というところでPGの合成が始まる。視床下部は体温を一定に保つサーモスタットの働きをしているが、生成されたPGはこのサーモスタットの設定温度を引き上げてしまう。
平熱に設定されている目盛りが上がると、体は体温が下がったと勘違いし、血管を収縮させて熱が逃げないようにしたり、震えによって熱を生み出そうとする。発熱時にブルブルくるのはこのためだ。
発熱はこうして始まるが、体温が高い方が体の防御機構を受け持つ白血球が活動しやすく、ウイルスも弱まると考えられている。
ところで、実際に痛みを発するのはPGではなく、ブラジキニンと呼ばれる発痛物質なのだが、痛みを増幅しているのがPGだ。痛みの刺激が伝わる受容体の感度を上げて痛覚過敏を起こすのだ。
このPGの生成を抑える薬が、おなじみのアスピリン。ほかにはエテンザミド、イソプロピルアンチピリン、イブプロフェン、アセトアミノフェンなどが解熱鎮痛剤と呼ばれている。
これらの成分は一般の風邪薬(総合感冒薬)にも配合されている。頭痛や歯痛などで解熱鎮痛剤を服用し、さらに風邪薬を飲んだりすると、成分が重複することになるので注意が必要だ。
今では、PGは生体内のあらゆる細胞で生成されていることが分かり、数十種類見つかっている。
あるPGは血管を収縮するが、別のPGは逆に拡張するなど、それぞれ固有の生理作用を持っている。現在、7種類のPG製剤が医療用医薬品として利用されている。