『第296話』 あいまいさ残る、抗菌加工の効果
抗菌という文字を見掛けるようになった。抗菌加工や抗菌処理といったロゴが入った商品が話題になっている。
抗菌という言葉は微生物学の専門用語にはない。薬の分類方法では合成化学療法剤と微生物が産生する抗生物質を併せて化学療法剤もしくは抗菌剤と表現することはある。
一般消費者には抗菌という言葉がイコール安全というイメージでとらえられているようだ。微生物の増殖を抑えることを「静菌」という。また薬用石鹸(せっけん)などの洗浄力の強い石鹸で菌を取り除くことを「除菌」という。抗菌にはこうしたイメージがあるようだが、明確な定義や規格はない。
今月、国民生活センターが一定の条件下で実施した検査結果を公表した。これによれば、製品ごとに抗菌結果やその持続効果に違いが出ていることが分かる。使い方の問題もあり、抗菌成分を含んでいれば安全といえるかどうかは疑問だ。
ぬめりの原因となる細菌は乾燥に弱い。夕食の後片付けが終わった後は、三角コーナーのごみはこまめに捨てて容器を乾燥させておくなど、抗菌表示のない製品と同等に日ごろの手入れをきちんとすることが必要だ。現状では、抗菌が商品選択の目安にはならないと考えた方がよい。
抗菌グッズといわれるものは1950年に登場している。防虫、防カビ、防臭を目的とし、人体に対して毒性がある有機スズや有機水銀が使われて問題となった。その後、1973年に制定された「有害物を含有する家庭用品の規制に関する法律」によって成分が規制されている。現在、抗菌成分として使われている物質にはヒノキチオールといった天然成分や金属類、農薬類があり、商品に成分が表示してあるものは少なく、その安全性の検証も不十分だ。
心配なのは、抗菌という言葉に安どしてしまい、汚れを落とす、熱湯消毒を行う、乾燥させるといった菌の繁殖を抑えるための基本的な衛生管理を怠ることだ。言葉に惑わされず、今一度身の周りの衛生管理について見直すことが必要だ。