『第303話』 良心踏みにじる、モルヒネの強奪

今月4日に起こった秋田大学医学部附属病院からのモルヒネ強奪事件。21日までは「ダメ。ゼッタイ。麻薬・覚せい剤撲滅普及運動」が展開されており、その一環として先月23日には県内4カ所で「国連支援募金街頭キャンペーン」も行われた。今回の事件はその矢先の出来事だった。

ヘロインやマリファナの原料となるケシや大麻は貧困な発展途上国の一部の人々が生活を維持していく糧として栽培している。これをただ単に撲滅し、栽培しないようにしてしまえば、明日の食事にも事欠くことになる。そこで、浄財を集めて、これを基にほかの農産物の栽培や転職などを助成している。

ケシから抽出したモルヒネは最も強力な鎮痛剤として、がん患者に福音をもたらした。日本でもモルヒネの使用量は増えているものの、諸外国の使用量に比べればまだ少ない。

痛みを除く治療薬として、医療機関にはなくてはならない薬が強盗に遭うということは予想もしていなかったことだ。「麻薬及び向精神薬取締法」や「覚せい剤取締法」では、盗難を防ぐために金庫に保管することや麻薬が確かに譲り渡されていることを確認するための書類整備、使用や廃棄の記帳義務がその柱となっている。

病院の防犯体制の不備が指摘されている面もあるが、病院を訪れる人は体だけでなく精神的にも疲れている。また、急患に対応するためにもオープンな環境を整え、治療に訪れた人々の疲れを癒(いや)すことが求められる公共施設だ。その良心を踏みにじる行為に怒りを覚える。

近年、薬物乱用のファッション化と低年齢化が心配されるなかで、法の網をかいくぐりファッション化を助長する合法麻薬まで登場しているありさまだ。麻薬・覚せい剤を使用した本人が廃人となるだけではなく、麻薬・覚せい剤を手に入れるために金品強奪を重ね、ついには錯乱・妄想(もうそう)状態に陥り、傷害事件を引き起こす。

人類は恐れられていた麻薬・覚せい剤を有効かつ安全に使用する知恵を備え持っているはずだ。