『第305話』 取り引きを規制する、ワシントン条約

日本の文化には食事の前に「いただきます」と礼をしてから食事に入る風習がある。

何をいただくのかというと「命」をいただくのだそうだ。植物や動物の命をとらなければ自分自身の命を維持することはできない。

薬も植物由来のものだけでなく動物由来のものがある。一番身近な動物由来の薬には血液製剤がある。また、古来から熊胆(ゆうたん)、麝香(じゃこう)、犀角(さいかく)、虎骨(ここつ)、羚羊角(れいようかく)、鹿茸(れいじょう)など、多くの動物由来の薬が使われてきた。いずれも大変希少で高価な薬として珍重され、薬を採取するために乱獲された歴史がある。

これらの薬の起源になる動物の中には現在ワシントン条約によって保護されている動物がある。ワシントン条約は昭和48年、ワシントンで採択されたのでこの名がある。日本は昭和55年に批准し、同年11月から発効している。現在この条約に加盟しているのは126カ国で、約35,000種の野生動植物の国際取引を規制している。

特に、犀角と虎骨はその基原動物にあたるサイとトラは商取引がまったく認められていないため、輸入禁止になっている。したがって、これらの成分を含む中国の医薬品で有名な虎骨酒や片仔廣(へんしこう)を国内に持ち込もうとすると、税関で所有権の放棄を求められる。

日本では国内の絶滅危ぐ動植物を保護するため「種の保存法」が平成5年に施行され、同7年の改正では加工品までが規制の対象となった。

むやみな殺生は避けるようにしたいものだ。養殖や分泌物を採取することで、屠殺(とさつ)せずに薬の成分だけを分けてもらう方法が考えられている。