『第306話』 交感神経の作用、薬用人参が抑制

東洋医学には「未病(みびょう)」という概念がある。病気になっていないときから、将来起こるかもしれない病気の予防をしておこうという考え方である。

「未病」に使用される薬は上薬(じょうやく)と呼ばれる。上薬は病気を予防する薬ということになる。代表的なものに薬用人参(にんじん)がある。

肩こりや頭痛、冷え性、食欲不振などは原因もはっきりせず、不定愁訴と呼ばれている。症状も検査の数値などで客観的に表すことができないため、病気として扱うことの難しさがある。

不定愁訴は自律神経である交感神経と副交感神経とのバランスが、交感神経が優位な方に傾いていることによって生じる。交感神経が優位な時、血管は収縮して血液が流れにくい。頭皮や肩、臀(でん)部はもともと血液が流れにくい場所なので、ますます血液が通りにくくなって頭痛や肩こり、下半身の冷えが現れる。

この行き過ぎた交感神経の作用を抑えるのが薬用人参だ。八味地黄丸(はちみじおうがん)に含まれるサンシュユやボタンピという生薬にもこの作用があることが分かっている。

肥満は動脈硬化や糖尿病の引き金になるが、食生活や運動、生活のリズムなどを改善することで予防が可能だ。

予防という意味では食品もまた上薬になり得る。大豆に含まれる大豆サポニンや玉露から抽出されるタンニンの一種エピガロカテキンなどが肥満の上薬になる。

大豆サポニンは腸管からの砂糖の吸収を抑えたり、脂肪細胞の容量を小さくして脂肪を減らすことが確かめられている。

またエピガロカテキンは血管壁に蓄積しやすい過酸化脂質や中性脂肪を低下させるという報告がある。