『第307話』 小児への薬投与、少量とは限らず

初めから子供を対象にして医薬品を開発することはほとんどない。しかし、医療の現場では小児用に開発されていない新薬でも子供に使用することがある。使用に際して、薬の説明書に小児用量を記載している薬剤は少ない。

医薬品の有効性と安全性は成人に対して行われた臨床試験によって得られたもので、小児や妊婦を対象として臨床試験を行うことはほとんどない。そのため多くの薬が小児や妊婦に対して安全性が確立されているとは言えない。

新薬では、成人に対し臨床上での安全性を十分に確認してからでないと小児への適応が検討されない。

小児量が記載されている薬剤の多くは抗生物質や抗菌剤である。これらの薬剤は子供に頻繁に処方されるため、市販後のデータが多く得られ、小児に対する用法、用量の検討が可能になるためだ。

小児への安全性が確立されていない薬は医師の経験や文献に基づいて医師が判断して使用する。

一般的には成人量を基に、小児量を求める数式を使って計算するが、加齢とともに量も増加するのが普通だ。

薬は主に肝臓で代謝されるが、薬を処理する能力は大人よりも乳幼児の方が大きい。肝臓の処理能力は肝臓そのものの大きさによるのではなく、体重に占める肝臓の重量比が大きいほど高くなる。

乳幼児はこの比率が成人よりも非常に高く、薬は速やかに分解され、効力が持続しない。従って実際には成人量よりも小児量の方が多くなる薬剤もある。

ひと口に薬といっても脂溶性のものや水溶性のものがあって、体内の細胞に拡散していく際には各年齢期における体脂肪率や細胞外液量(体重に対する水分量)に影響を受ける。

小児用量といってもただ単に少なくすればよいというわけではない。理想的な小児量を決めるにはこのように検討すべき課題が多いのが実情だ。