『第308話』 O157の治験、全国的に実施へ

昨年、全国的に大きな問題となったO157による食中毒は、今年は散発的な発生はあるものの、まだ大規模な集団発生はしていない。

その後、O157に関する診断法、治療法が検討され、一定の指針が示されている。また、新たな医薬品の開発が進み、特定の病院で治験に入った医薬品がある。

治験とは、医薬品の開発段階で有効性と安全性を客観的に評価するために、使用する患者さんの了解を文書で得て、実験的に使用することをいう。治験の対象となっているのは、O157または血清型ベロ毒素産生性大腸菌による感染症に罹患(りかん)した生後6カ月以上16歳未満の入院患者だ。

この薬はオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)の指定を今年3月に受けている。患者数の多い疾病であれば、製薬メーカーは経営的観点から積極的に医薬品の開発を進める。しかし、特殊な疾病では使用される可能性が非常に低いために、経費と時間がかかる医薬品開発がさらに遅れてしまう。これを防ぐためにオーファンドラッグに指定して、医薬品開発メーカーを国が支援している。

現在治験に入った薬は、ケイソウ土にベロ毒素を吸着するトリサッカライドを結合させたもので、腸管内でベロ毒素を吸着して便とともに排せつさせる。これによって、ベロ毒素の全身への拡散を防ぎ、溶血性尿毒素症症候群(HSU)や脳症などが重症化しないようにしようとするものだ。従って、すでにベロ毒素が腸管内から血中へ移行し、HSUが発症している場合にはまったく効果がない。この薬は無味・無臭の細粒粉末で、食物に混ぜて服用する。ただし、60度以上の熱い食べ物に混ぜると吸着活性が低下するので注意が必要だ。

現在、厚生省は各都道府県に少なくとも1カ所の治験実施施設を設置する方針を示しており、全国的な治験が実施されようとしている。