『第328話』 手間暇が掛かる、ワクチンの生産
休耕地を再び水田に戻し、その水田からおコメを生産しようとしても目の前で起こっている飢きんを救うことはできない。おコメができるまでにはかなりの手間暇が掛かるからだ。
同じように、香港で死者を出している新型インフルエンザウイルスA(H5N1)のワクチンをすぐさま大量生産することはできない。その理由は、ウイルスは生きた細胞がないと増殖できないために、有精卵(ヒヨコになれる卵)が大量に必要になるからだ。食品として流通している卵は無精卵でワクチン製造用としては使えない。また、生産技術者や製造ラインの確保も必要だ。平成6年の予防接種法改正で、予防接種の実施が努力義務規定に変わったためにワクチン接種者が減少し、こうした技術者と施設を維持できなくなってきている。
手元にある薬科大学のインフルエンザワクチン製造実習書には使用する鶏卵の生後日数の規定や接種部位などが事細かに書かれている。また、ワクチン製造には無菌操作という技術の習得が必要だ。
インフルエンザウイルスには外膜にヘムアグルチニン(HA)とノイラミニデース(NA)という2種類の糖タンパク突起物があり、この型で分類していく。現在生産されているインフルエンザワクチンは、Aソ連型(H1N1)・A香港型(H3N2)およびB型の2種類を入れたワクチンで、今回の新型には効果がない。
インフルエンザを予防するためには①過労や睡眠不足を避ける②十分な栄養と休養を取る③うがい、手洗いを励行する④人込みを避ける⑤マスクを着用する-ことが重要だ。香港では感染源を遮断するために大量の鶏が処分されたが、鶏や卵を食べても一般的に感染することは考えられない。
治療薬としてパーキンソン症候群治療薬のアマタジンが効果があるのではないかと注目され、現在情報の収集が行われている。