『第332話』 ドーピング検査、漢方薬も対象に

長野冬季オリンピックが昨日から始まった。極限まで鍛えられた肉体によって、どこまで記録が伸びるのか興味は尽きない。スケートリンクでの妙技や緊迫した競技が楽しみだ。

限界まで鍛えられたオリンピック選手といえども、病気にならないわけはない。突然の発熱に解熱剤を使わざるを得なくなることもある。筋肉痛には消炎鎮痛剤も必要だ。

しかし、われわれとは違い、オリンピック選手は手軽に薬を使うことができない。なぜならばドーピング検査に引っ掛かってしまうからだ。

1984年のロサンゼルス・オリンピックの時、日本男子バレーボールの選手が風邪を引き、トレーナーから渡された葛根湯を服用して出場した。試合後に行われたドーピング検査で、この選手から興奮剤が検出された。葛根湯にはマオウが含まれている。マオウの有効成分はエフェドリンとメチルエフェドリンだ。その薬効は鎮咳(ちんがい)作用だが、覚せい剤の原料にもなる興奮剤で、ドーピングの対象薬物でもある。本人はまったく知らなかったという理由で処分されなかったが、葛根湯を渡したトレーナーは選手村から退去、向こう2回のオリンピック参加停止処分となった。

漢方薬には生薬の表示はあっても有効成分の記載がないため、ドーピングの対象薬物が入っているかが分かりにくい薬といえる。このほかにも興奮剤に分類されているカフェインは風邪薬や栄養ドリンク剤にも入っていて、オリンピック選手が服用するときには注意が必要だ。ただし、カフェインはコーヒーや緑茶にも入っていて、薬物として服用したのかが分かりにくい。そこで尿中のカフェイン量が12マイクログラム/ミリリットルを超えるとドーピングと判定することになっている。

薬を使わなくても済むように、オリンピック選手の健康を願いつつ、精いっぱいの活躍を期待したい。