『第341話』 薬の効果に人種間差

人の心や体は均一ではない。顔や考え方が千差万別でこそ、正常な状態といえる。科学的推理小説に登場する遺伝的形質がまったく同じクローン人間の集団があれば、これは異常な状態といえるだろう。

しかし、医薬品を開発する側からすれば、できれば使用する側の人の性質が同じで、一律に同じように薬の効果が発揮できるならば、これに越したことはない。

医薬品は日本で開発されたものよりも諸外国で開発されたものの方が多い。医薬品を開発する段階では数々の臨床試験が行われるが、このときに参加する被験者はその国の人ということになる。従って、日本人において、医薬品を用いたときに不都合な状態が起こらないことを再度確認する必要がある。実際に国内で販売するに当たっては日本人を被験者に臨床試験が行われている。また、人種間差とともに人種内差がどの程度あるかを把握しておく必要もあり、状況はさらに複雑だ。

人種間差が起こる要因には体形、食生活、気候、遺伝的な形質などが考えられる。最も大きな要因として挙げられるのは薬物を代謝する酵素の違いだ。これは外国人と日本人のアルコールに対する強さの違いで比ゆすることができる。一般的にはアルコール代謝酵素が活発に働く外国人の方がアルコールに強い。中には外国人よりも強い日本人もいて、国内間差の幅も相当広いことが予想できる。これと同様のことが医薬品でも起こる。

過去には、日本で使用している用量の抗結核薬イソノアジドを服用したところ、副作用の発生が外国で多発した例があるが、多くの薬では人種間差よりも人種内差の方が大きく、問題となることは少ない。

現在、国際化の中で、医薬品の承認を簡素化する話し合いが進み、さまざまな問題点が協議されている。加熱血液製剤などの承認審査の遅れが問題となったが、安全性を確認し、諸外国で利用されている有用な医薬品の速やかな供給体制の整備が進んでいる。