『第343話』 乳がんの予防に大豆

乳がんは乳腺組織の悪性腫瘍(しゅよう)で、乳腺のしこりとして気がつきやすいため、自己発見が可能だ。

卵巣でつくられる女性ホルモンの一種、エストロゲンは乳がんの進行を促進することが知られている。

少女期に運動選手をしていた女性は乳がんになりにくいという。激しい運動はエストロゲンの生産を抑える働きをし、その結果初潮を遅らせる。

遅い初潮、若い年代での妊娠、早い閉経では生産されるエストロゲンの期間が短くなるため、乳がんになる率が低くなるといわれている。

エストロゲンが細胞の表面にある受容体に結合すると、細胞の増殖を促せという命令が下り、乳房、卵巣、子宮などの組織の細胞分裂が盛んになる。エストロゲンが急増すると、細胞増殖を繰り返している乳房の細胞を刺激してがん化させることになる。

がんは細胞分裂が制御できなくなって、異常に細胞が増殖したものだ。

そこでエストロゲンによく似た物質でこの受容体にふたをしてしまうと、増殖はストップする。これが乳がん治療に使用される薬剤のタモキシフェンだ。

更年期になるとエストロゲンは減少する。すると、のぼせ、イライラ、不眠など更年期障害と呼ばれる特有の症状が起こってくる。このように一方ではエストロゲンの恩恵を受けながらも、量によってはがん発生のきっかけをはらんでいる。

このバランスを保つ方法の1つに大豆製品の摂取がある。

大豆タンパクに含まれるイソフラボンという物質は腸内細菌によって、エストロゲンによく似た物質に変わる。これがエストロゲンの受容体に結合して、エストロゲンの強い刺激にさらされないようにすることが報告されている。