『第345話』 血液の酸性化を防止
人はホメオスタシスという恒常性を保って生命を維持していくシステムを持っている。ちなみに、ホメオとは「同一の」、スタシスとは「状態」を意味するギリシャ語だ。
血液・体液の水素イオン濃度は常に一定の値を示す。水素イオン濃度の逆対数がpHといわれる値で、7が中性、ゼロに近くなるほど酸性が強くなる。人の体液は7.35~7.45なので弱アルカリ性ということになる。この状態で、細胞内の酵素反応が良好に働き、細胞の活動を正常に維持できる。
かつて、酸性食品・アルカリ性食品という言葉があったが、今はまったく使われない。それはホメオスタシスによって、いろいろな食品を摂取しても体液のpHが正常値から大きくずれることはなく、間違った意味に使われるからだ。
しかし、その体液のpH調節作用を担う肺や肝臓に病的な異常が起こったり、糖尿病などで代謝異常が起こると、血液や体液が酸性やアルカリ性に傾くことがある。また、高カロリー輸液を行っている場合も、アシドーシスという血液が酸性に傾く病態を起こすことがある。
高カロリー輸液療法を受ける患者は重症者がほとんどで、もともと体液の液性変化を起こしやすく、この変化が生命に重大な危機を招くため、常時臨床データが集められている。高カロリー輸液はブドウ糖、フルクトース、キシリトールなどの糖分を主成分として各種のアミノ酸や電解質を含む。
糖分は体内でピルビン酸となり、さらにアセチルコエンザイムAに変化し、クエン酸回路と呼ばれる反応系に入ってエネルギーに変わる。ピルビン酸をアセチルコエンザイムAに変えるときやクエン酸回路では数々の酵素とビタミンB1(チアミン)が必要になる。ビタミンB1がないと、ピルビン酸は乳酸に変わり、血液中に蓄積して乳酸アシドーシスを起こす。つまり、乳酸によって血液が酸性化してしまうということだ。従って、高カロリー輸液を行うときには必ずビタミンB1を併用している。また、ビタミンB1欠乏によるアシドーシスでは直ちにビタミンB1を大量、急速に静脈内投与する。