『第346話』 観察しやすい口内炎

口の中やのどの周辺は、医学用語で口腔、咽喉(いんこう)や咽頭と呼ばれ、内科、歯科、耳鼻科の領域にまたがってさまざまな病気が起こる場所だ。

口の中は観察が容易なので、症状の経時的変化を確認しやすい。例えばのどの痛みを訴える場合でも、軽い風邪から急性扁桃(へんとう)炎、即刻入院が必要とされる危険なジフテリアまで考えられる。

急性扁桃炎は風邪などで体力が弱ったところに、のどの奥の細菌によって炎症が起きるものだ。高熱とともに扁桃が赤く腫(は)れ、扁桃のへこんだところに白い斑(はん)点が生じる。ジフテリア菌に感染したときも同様にのどの奥に白い斑点状の偽膜ができる。

扁桃炎による白斑は綿棒でこすると簡単にはがれるのに対し、ジフテリアの場合ははがれにくく、無理にはがそうとすると出血する。これが両者の鑑別方法で、ジフテリアは短時間のうちに重症化するので油断できない。

ほかにも口内炎や、義歯による周辺組織の壊死(蓐瘡=じょくそう)は初期の悪性腫瘍(しゅよう)と類似点も多いが、普通の口内炎は短時間で軽快するので区別できる。

よく見受けられるアフタ性口内炎は原因は不明だが、睡眠不足や過労、ストレスなど全身的な抵抗力が弱ったときにできやすい。アフタと呼ばれる縁が真っ赤で内側が白色の浅い潰瘍(かいよう)が口腔の粘膜にできる。小さなものでも鋭い痛みがあり、食事や会話などに差し支えることもある。

治療としては、うがい薬を用いて口の中を洗浄し、口腔内を清潔にしてから、綿棒や指先でアフタの範囲よりも広めに軟こうを塗布する。軟こうには炎症を抑える合成副腎皮質ホルモンや抗菌作用を持つ塩酸クロルヘキシジンなどが含有されている。

口腔内に症状が限局しているとはいえ、口内炎が広範囲にたくさんできるときや、それが繰り返し起きるときはベーチェット病が疑われる。また、猩紅熱(しょうこうねつ)のときはイチゴ舌、小児の麻しんではコプリック斑と呼ばれる特徴的な病変が口腔内に生じる。

歯磨きの際には、口の中を観察することも日課にしてみてはいかがだろうか。