『第347話』 BCGワクチンの由来

かつて国民病といわれた結核は確かに死亡原因の首位の座を悪性新生物や心疾患、脳血管疾患に明け渡し、過去の病気という印象が強くなっている。

しかし、現在でも年間約3,000人が結核で死亡している。治療中の患者が約17万人、平成7年に新患として登録された患者が43,000人いて、先進諸国の中でもり患率は高いほうだ。

結核を予防するためにはBCGワクチンを使う。ツベルクリン反応の結果、陰性者に推奨接種される。このワクチンは生ワクチンで、生きた結核菌が使われている。当然結核病変を起こす毒力は持っていない。

結核菌はローベルト・コッホが1882年に発見している。パスツール研究所のカルメットとゲリンは1908年から13年間、強毒性のウシ型結核菌を230代も継代培養してBCGを作り出した。継代培養とは、細菌を育てる培地を次々と新しいものに変えて、培養を繰り返す操作をいう。継代培養を行うのは、細菌が増殖過程で突然変異を起こし、細菌の性質や毒力に変化が起こることを期待しているからだ。

こうして「カルメットとゲリンの結核菌」の頭文字をとったBCGが誕生した。

日本には赤痢菌の発見者で有名な志賀潔が1925年にパスツール研究所から持ち帰り、現在でも国立予防衛生研究所に保管されている。

1921年、BCGがフランスで初めて新生児に接種されたときは経口投与だった。その後、皮下注射になり、局所反応を軽減するために皮内接種法に変わり、1967年から9本の細かい針が5ミリ間隔で固定された円筒を使う「朽木(きゅうぼく)式管針」を用いた経皮接種法になっている。

BCGは直射日光やその散乱光でも殺菌されてしまうので、褐色の遮光アンプルに入っている。

生ワクチンなので接種時には皮膚を消毒したアルコール消毒液をよく乾燥させて接種し、接種部位に光が当たらないように注意している。