『第354話』 薬の別の使用方法

薬は単一の成分でもさまざまな薬理作用を持っている。その中でも際立って現れる作用(主作用)でその薬の適応症が決まってくる。

例えば、主に血圧を下げる作用があれば降圧剤、熱や痛みを抑える働きがあれば解熱鎮痛剤となる。主作用以外にもさまざまな薬理作用があるため、使用量を調節することで適応症以外の使い方が可能になってくる場合がある。

最もよく知られているものにアスピリンがある。成人量では解熱鎮痛剤として働くのに対し、小児量を服用すると血管内で血小板が凝集するのを抑え、血栓ができるのを防ぐことができる。心筋梗塞(こうそく)の発症予防として服用している人もかなり多いが、あくまで保険医療上では未承認の使い方だ。

どうしてもたばこがやめられない人に、その習慣を断ち切る助けとして使用されるニコチンを含有した貼付(てんぷ)剤がある。これを皮膚に貼(は)るとそこからある決められた量のニコチンが血液中に放たれて、たばこへの渇望が軽減されるというのが本来の使用目的だ。ところが、これを一般の処方では効果の見られない大腸炎に使用する例がある。

ほかにも、抗がん剤のメトトレキセートは難治性慢性関節リウマチや中絶薬(アメリカの例)に使用されることがある。

このような薬の別の使用方法を製薬メーカーが宣伝することはない。医師は医学誌に載せられた研究論文などからその使用法を学んだりする。従来の薬では回復せず、ある薬の許可されない使用法で症状が好転するという報告も多い。

しかし、安全性の高い薬でも未承認の使い方に不安があることは事実だ。また、保険請求しても、未承認ゆえ点数が認められないという問題が医療機関側にあり、日本でこのような使用方法はまだ少なく、十分な研究が待たれる。