『第358話』 和歌山毒物事件の反省

サリン、シアン、ヒ素と毒劇物や薬物を用いた事件が後を絶たない。このほかにも、自殺、誤飲、誤食などが毎日のように発生し、毒劇物の成分を確定する作業が行われている。

犯罪捜査のための鑑定は警察の鑑識課が行うが、治療に役立てるためにはこれとは別に、いち早く原因毒物を特定することが必要だ。

毒物の成分を確定する作業は、事件の発生状況、毒物を飲まされてから死亡するまでの時間、死者数とその割合、生存者の症状、被害者の証言内容など、総合的な判断から毒物と思われるものを推定することから始まる。

しかし、和歌山県で発生した毒物混入事件のように初期段階で事情が分からなければ食中毒の事例と考え、細菌検査を実施してしまう。事件が起こっているのか食中毒なのかを瞬時に判断することは難しい。

通常犯罪に使用される毒物は身近にあって、入手可能なものに限られてくるので、推定できる毒物から確認作業に入れるが、サリンのように入手不可能で特殊な毒物の確認は、非常に困難を極めることになる。

シアン化合物が混入されているかどうかは、シェーンバイン反応という方法で割合と簡単に確認することが可能だ。栓ができる容器に試料の一部を取って、シュウ酸を加えて酸性とし、グアヤク試験紙を容器に垂らして栓をする。これをお湯の上で軽く加温するとグアヤク試験紙が青色に変わってくる。

しかし、今回のように複数の毒物が使われている場合、さらに踏み込んだ確認作業を行うかは疑問だ。過去の事件をみても、一種の毒物の場合がほとんどで、追認作業を怠る可能牲があるからだ。

シアン化合物は即効性の毒物で、徐々に症状が悪化したり、持続的に症状が残ることはない。この症状の判断から、ヒ素中毒が疑われ、確認が行われたと思われる。

ヒ素中毒の治療はシアン中毒と異なり、解毒剤としてジメルカプロールまたはペニシラミンを使う。

当会にも医薬品試験センターがあり、毒物の鑑定を行ったことがある。非常事態に備え、迅速・的確に毒物の鑑定を行い、治療に寄与できるシステムを確立する必要がある。